草原景観の再生・維持のために「中瀬草原の景観の黄金比って?」

中瀬草原キャンプ場の魅力はなんといっても広大な草原にあります。
この草原は地元の皆さんが長年維持されてきた結果、奇跡的に残ったものです。


中瀬草原から海を眺めると草原、海、空がバランス良く目に飛び込み、玄界灘の島々が良いアクセントとなり、安らかな気持ちになります。私たちはこれを中瀬草原の黄金比と呼び、草原のシャープなラインが際立つように日々の景観維持に努めております。  海を少し高いところから眺められること、草原が緩やかな傾斜となっているからこその景色で、180度見渡せるこのような視界は世界広しといえども珍しいのではないかと思っております。

季節や時間帯により色合いの変化が楽しめる

キャンプ場運営を引き継ぐにあたり、草原の維持・保全のため、車両の乗入れは最小限にとどめてほしいという地元からの要望書をいただき、私どももその考え方に共感いたしました。
荷物をサイトに運ぶのが少し不便なサイトですが、どうかご理解ください。
そこで、その不便さを楽しんでいただくため、日々芝刈りをしていて気付いたことをまとめてみました。

1.芝を痛める最大の原因は「わだち」です
 車の乗り入れると曲がりやブレーキ、タイヤの空回りなどにより、芝を痛めます。雨上がりなど、特に土壌に水分が多いときほどひどく、このような時に走行すると芝生に「わだち痕」ができてしまいます。これが何度も同じ場所で、地形の傾斜と重なると、水路(みずみち)となり、いわゆる小規模なガリー侵食のような現象が生じます。登山道などでも問題となりますが、一度ガリー侵食が起こると、芝の再生は困難となります。  中瀬草原の丘陵に不特定多数の方の車の乗り入れがあると、この草原景観は間違いなく短期間で消滅するだろうと考え、乗入れ禁止措置を取らせていただいております。  私どもの維持管理でも車両の乗入れには最大限配慮して行っていおります。

2.焚き火の焦がしを最小限にするためのお願い  
キャンプといえば「焚き火」といえるくらい、楽しむ方が増えてきました。最近では様々なタイプの焚き火台があり、BBQコンロを見かけることも少なくなってきました。 しかしながら、焚き火による芝の焦がし、火の粉によるテントの穴あきなど、トラブルも多くなっています。  焚き火台の使用には鉄板、防火・耐火シートの利用をお願いしておりますが、焚き火が長時間続くと焚き火台に蓄熱され、芝に大きな焦げが発生します。特に広葉樹の長期間の焚き火は高温となるため要注意です。 どのキャンプ場でも芝のコンディションを整えるために苦労していますから、芝が焦げるのを見ると忍びない気持ちになります。また、一度焦げた芝の回復は1〜2ヶ月かかることは意外と知られていません。  そこで私どもは夜の見回り時に焚き火シート、鉄板、芝にしっかり水を撒くようお願いしております。これだけでずいぶん芝の焦げが抑えられますので、ご協力よろしくお願いいたします。

芝生にできた焚き火痕(軽症:表面焼)

芝生にできた焚き火痕(重症:根焼)

3.水溜りができないサイト  
台風や長雨、夕立など、キャンプは雨の影響を受けやすく、天気予報の確認が常に必要です。  最近ではテント幕もかなり質が良くなり、多少の雨でも問題なく過ごせるものが増えてきました。  しかし、時間雨量が10mm/hを超えると芝に水溜りができ、設営や撤収が嫌になります。  その点、中瀬草原は緩やかな傾斜、砂質土壌により、水の吸収や流れが良く、水溜り出来ることはほとんどありません。まとまった雨が降ると、草原の谷間に水が集まり、一気に海へ流れていくを見るのは圧巻です。雨上がり3時間程度でテントを張れる状況になるので驚きです。そういう意味では中瀬草原はキャンプ場に最適な地形と土壌を有しているといえます。

大雨の後、滝のように海へ流れ落ちる雨水(中瀬草原から撮影した対岸の平戸島)

4.イノシシの掘り起こし被害の撲滅  
中瀬草原周辺もリニューアルオープン当初はイノシシをよく見かけました。イノシシはそこら中を掘り起こすことで知られていますが、開園当初多かった掘り起こし被害も、今年に入り激減しました。  その理由として考えられるのが、羊の放牧です。中瀬草原では定期的に羊を放牧させています。畜舎飼いに比べ、放牧された羊は真っ先に好きな草を食べます。特にカンネカズラ(クズ)の葉を好み、真っ先に見つけて食べ続けます。草原にはびこっていたカズラの葉は放牧を開始してから一気に減りました。 その結果、カズラの根っこのクズが好きなイノシシも掘る手がかりを無くしたのではないかと考えています。  耕作放棄地にはびこるクズやセイタカアワダチソウなど、羊が好きな植物が沢山あります。放牧により牧歌的な良質な景観が維持されてきたことは世界中どこでも実証されています。

真っ先にカンネカズラを探して食べる羊の放牧

5.刈った草は必ず集めて羊が処分  
これだけ広い草原ですから、全面草刈りの時はかなりの草が発生します。植生廃棄物と言われる刈った草の処分費はかなりの金額となり、一般的に「刈る」、「集める」、「処分」で除草コストの1/3ずつかかると言われています。刈る、集めるには人件費がほとんどですので、処分がいかに高いかわかっていただけるかと思います。 しかし、その割高な処分費を縮減するため、野積みした草をよく見かけます。  酸性分の多い草の放置は土壌を更に酸化させ、より強い雑草の繁茂に繋がります。まさに長年放置された耕作放棄地のメカニズムと一緒です。繁茂→枯れ→蓄積→繁茂と繰り返すうちにこの辺りではセイタカアワダチソウ→ダンチク→アカメカシワ→樹林への遷移と長年かけて回復手間が増大し、トラクターで掘り起こすこともできず、手がつけられない状況へと変化していきます。  そこで、刈った草は集草→羊のエサとして処分し、処分費と餌代のダブルコストの縮減に役立っています。 そして何より草で太った羊は羊肉としても期待できます。

場内で発生した草を食べる羊

中瀬草原の草原の維持管理には膨大な労力とコストが必要です。しかしながら、皆さんの協力のもと、私どももこの景観の維持・保全に手応えを感じております。開園してから草原面積は3割ほど増えてきており、更に草原エリアを拡大すべく計画中です。  更に広々と海が眺められる場所とすべく、励んで参りますので、ご来場の都度、ご確認いただければ幸いです。            

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